暗号資産市場において、USDTは重要な役割を果たしています。2026年10月時点の発行額は約1,840億ドル(約28兆円)と、ステーブルコインの中で最大の規模です。
結論から言うと、USDTは「1USDT=1米ドル」を目指すステーブルコインで、海外の取引所での売買や送金に広く使われています。一方で、2026年10月時点で日本の国内取引所では買えないこと、準備金の透明性や規制への対応に課題があることなど、利用する前に知っておきたい注意点もあります。
本記事では、仮想通貨「USDT」の概要、仕組み、メリット、日本からの利用方法、そして懸念点や注意点について解説します。
仮想通貨の「USDT」とは:代表的なステーブルコインの一つ
USDTは、Tether(テザー)社が発行する、”米ドルに価値が連動するように設計された仮想通貨”です。
「1 USDT = 1 USD(1米ドル)」
の状態を保つことを目指しており、取引所でビットコインなどの仮想通貨を買う際にもよく使われる通貨です。
「1USDT = 1ドル」のように、他の資産(法定通貨や金など)と価値・価格が連動するように設計された仮想通貨のことをステーブルコインといいます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | Tether(テザー) |
| 通貨単位 | USDT |
| 発行元 | Tether社(2025年にエルサルバドルへ本拠地を移すと発表) |
| 発行開始 | 2014年 |
| 連動する資産 | 米ドル(1USDT=1ドルを目指す) |
| 発行額 | 約1,840億ドル(2026年10月時点) |
| 主なブロックチェーン | トロン、イーサリアムなど |
| 国内取引所での取り扱い | なし |
USDTの特徴
- 安定性:米ドルとの価値連動
- 流動性:多くの取引所で利用可能
- 迅速性:24時間365日、素早い取引が可能
特に流動性の高さはUSDTの大きな強みです。海外の多くの取引所では、ビットコインやイーサリアムなどの取引ペアが「BTC/USDT」のようにUSDT建てで用意されており、事実上、暗号資産市場の基軸通貨の一つになっています。
USDTとほかのステーブルコインの違い
米ドルや日本円に連動するステーブルコインはUSDT以外にもあります。代表的なものと比べると、次のとおりです。
| 項目 | USDT | USDC | JPYC |
|---|---|---|---|
| 連動する通貨 | 米ドル | 米ドル | 日本円 |
| 発行元 | Tether社 | Circle社(米国) | JPYC社(日本) |
| 規模 | ステーブルコインで最大 | 2番目 | 小規模 |
| 国内での入手 | 不可(海外取引所などを利用) | SBI VCトレードで取り扱い | 国内で発行・利用可能 |
| 特徴 | 海外取引所での流動性が高い | 米国の規制に沿った運営と情報開示 | 日本の法律に基づく円建て |
日本国内で米ドル建てのステーブルコインを使いたい場合は、2026年10月時点ではUSDCが現実的な選択肢になります。日本では2023年の法改正でステーブルコインのルールが整い、2025年3月にはSBI VCトレードがUSDCの取り扱いを始めました。同年10月には、日本円に連動するJPYCの発行も始まっています。国内のルールに沿って発行・取り扱いされているステーブルコインは、利用者の資産の保全などで日本の制度による保護を受けられる点が、USDTとの大きな違いです。
USDTの仕組み
USDTは、発行元であるTether社によって管理されています。その仕組みは以下のとおりです。
- 裏付け資産:Tether社は、発行したUSDTと同額以上の米国債や現金などを準備金として保有
- 発行と償還:需要に応じてUSDTを発行し、不要になった分を償還(米ドルと交換して消滅させる)
- ブロックチェーン技術:トロンやイーサリアムなど、複数のブロックチェーン上で発行
Tether社から直接USDTを発行・償還できるのは、本人確認を済ませた大口の利用者などに限られます。個人は一般的に、取引所でほかの暗号資産と交換してUSDTを入手します。取引所での価格が1ドルを下回れば、大口の利用者が安く買って1ドルで償還することで利益を得られるため、こうした取引を通じて価格が1ドル付近に保たれる仕組みです。
準備金の中身
Tether社は四半期ごとに、会計事務所BDOによる準備金の報告書(アテステーション)を公表しています。2026年6月末時点の報告では、資産が約1,877億ドル、USDTなどの負債が約1,836億ドルで、資産が負債を約41億ドル上回っていました。資産の約6割は米国の短期国債で、そのほかに金やビットコイン、担保付きの貸付などが含まれています。
USDTが発行されているブロックチェーン
USDTは複数のブロックチェーン上で発行されており、同じUSDTでもチェーンによって送金手数料や対応するウォレットが異なります。2026年時点では、トロン(TRC-20)とイーサリアム(ERC-20)の2つで発行額の大部分を占め、トロンが全体の約半分と最も多くなっています。
| チェーン(規格) | 送金手数料の支払いに必要な通貨 | 特徴 |
|---|---|---|
| トロン(TRC-20) | TRX | 発行額が最も多く、手数料が比較的安いため送金によく使われる |
| イーサリアム(ERC-20) | ETH | 対応するサービスやDeFiが最も多い |
| その他 | 各チェーンの通貨 | ソラナなどでも発行されているが、対応する取引所は限られる |
ウォレットでUSDTを送るときは、USDTとは別に、そのチェーンの手数料用の通貨(トロンならTRX、イーサリアムならETH)が少し必要です。USDTだけを持っていても送金できないため、事前に用意しておきましょう。
一方で、Tether社はOmni Layer、Bitcoin Cash SLP、Kusama、EOS、Algorandの5つのチェーンでは、新規の発行と償還を終了しています。古いチェーンのUSDTを持っている場合は、取引所やウォレットの対応状況を確認しましょう。イーサリアムの仕組みについては、イーサリアム(ETH)とは?仕組み・特徴・歴史を初心者向けに解説で解説しています。
USDTのこれまでの歩み
USDTは、ステーブルコインの中でも特に長い歴史を持っています。主な出来事は次のとおりです。
- 2014年:「Realcoin」として発表され、同年に「Tether」へ名称を変更して発行が始まる
- 2017年11月:Tether社のウォレットから約3,100万USDTが不正に引き出される事件が発生(該当分は凍結)
- 2021年:準備金の説明をめぐり、米ニューヨーク州司法長官と和解し、米CFTCからも制裁金を科される
- 2022年5月:TerraUSDの崩壊による市場の混乱で、一時約0.95ドルまで下落
- 2024年:米国債の利回りを背景に、年間の純利益が130億ドルを超える
- 2025年:エルサルバドルに本拠地を移すと発表。11月にS&Pが評価を「5(弱い)」に引き下げ
- 2026年:米国向けの別のステーブルコイン「USAT」を発行。5月に発行額が過去最高を記録
このように、USDTはたびたび信頼性を問われながらも、暗号資産市場で使われ続けてきました。Tether社は準備金の運用で大きな利益を上げており、その資金をビットコインや金、AIなど幅広い分野への投資にも回しています。
USDTのメリット
価格変動リスクの軽減
暗号資産市場の激しい変動から資産を守りたい投資家にとって、USDTは避難先として機能します。相場が大きく下がりそうなときに、保有している暗号資産をUSDTに替えておけば、ドル建ての価値をほぼ保ったまま様子を見ることができます。ただし、日本円で考えると、ドル円の為替レートの変動の影響は受ける点に注意が必要です。
取引の利便性向上
法定通貨との交換を経ずに、暗号資産間の取引をスムーズに行えます。海外の取引所では多くの銘柄がUSDT建てで取引されているため、USDTを持っていれば、取引所に日本円を入金しなくてもさまざまな暗号資産を売買できます。
国際送金の効率化
従来の銀行送金と比べ、USDTを使用することで国境を越えた送金が迅速かつ低コストで実現できます。銀行の営業時間に関係なく、数分程度で相手に届くのが一般的です。特に、自国通貨の価値が不安定な新興国では、米ドルの代わりとしてUSDTが使われる場面も増えています。
USDTの主な使われ方
- 暗号資産の売買:海外取引所で、ビットコインなどを売買する際の基軸通貨として使う
- 相場の様子見:相場が不安定なときに、暗号資産を一時的にUSDTへ替えて値動きを避ける
- 海外送金:家族への仕送りや取引先への支払いを、銀行を通さずに送る
- ドル資産の保有:自国通貨の価値が下がりやすい国で、米ドルの代わりとして持つ
- DeFiでの利用:分散型の取引所やレンディングサービスで、取引や担保に使う
一方、日本国内では、USDTを使ってお店で買い物をしたり、日本円に直接替えたりする手段はほとんどありません。日本に住む人にとっては、主に海外取引所やDeFiを利用するための通貨と考えるとよいでしょう。
USDTの利用方法
2026年10月現在、国内の取引所でUSDTは取り扱われていません。日本でステーブルコインを扱うには「電子決済手段」に関する制度に沿った登録などが必要ですが、USDTはその枠組みでの取り扱いが始まっていないためです。私たち日本人がUSDTを利用する主な流れとしては、下記のいずれかのパターンになるかと思います。
パターン1:
- 国内取引所にて、日本円でビットコインを購入
- 海外の取引所にビットコインを送金
- ビットコインを売却し、USDTを得る
(「BTC/USDT」の取引を行う)
パターン2:
- 国内取引所にて、日本円でビットコインを購入
- USDTに対応した仮想通貨ウォレットを作成
- 作成したウォレットにビットコインを送金
- DEX(分散型取引所)で「BTC/USDT」の取引を行い、USDTを得る
どちらにしても、まずは国内取引所での口座開設が必要になります。
(コインチェックなど)
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ウォレットとDEXで入手する場合の注意
パターン2のようにウォレットとDEXを使う場合は、偽物のトークンに注意が必要です。DEXでは誰でも「USDT」という名前のトークンを作れるため、名前だけで選ぶと価値のない偽物をつかまされることがあります。Tether社の公式サイトに掲載されている、各チェーンのUSDTのコントラクトアドレス(トークンの識別番号)と一致しているかを確認しましょう。また、DEXでの交換では、注文時の想定価格と実際の約定価格がずれる「スリッページ」や、チェーンの手数料にも注意が必要です。
送金するときはチェーンの選択に注意
USDTを送金・入金するときは、送り先が対応しているチェーン(ERC-20やTRC-20など)を必ず確認しましょう。チェーンを間違えて送ると、資産を取り戻せなくなるおそれがあります。初めて送るときは、少額で試してから本番の送金をすると安心です。
また、海外の取引所の中には、金融庁から無登録営業の警告を受け、日本居住者向けのサービスを終了したところもあります。たとえばBybitは、2025年10月末で日本居住者の新規登録を停止しました。利用する取引所が日本居住者の利用を認めているか、事前に確認しましょう。
USDTに関する懸念と課題
USDTには多くのメリットがある一方で、いくつかの懸念点も指摘されています。
透明性の問題
Tether社の準備金に関する情報開示が不十分だという指摘があります。四半期ごとの報告書は、ある時点の資産の状況を確認する「アテステーション」で、一定期間の取引や管理体制まで調べる正式な「監査」ではありません。Tether社は大手監査法人による監査を進めているとしていますが、2026年10月時点で結果は公表されていません。
過去には、2021年に米ニューヨーク州司法長官との間で、準備金の説明に関する問題で和解金を支払ったほか、米商品先物取引委員会(CFTC)からも制裁金を科されています。また、2025年11月には、格付け会社S&Pグローバルが、USDTのドル連動を維持する力の評価を最も低い「5(弱い)」に引き下げました。ビットコインなど値動きの大きい資産の比率が高まっていることや、情報開示の不足が理由とされています。
ドル連動が崩れるリスク
USDTは「1ドル」を目指していますが、常に1ドルが保証されているわけではありません。2022年5月には、別のステーブルコイン「TerraUSD(UST)」の崩壊をきっかけに市場が混乱し、USDTも一時約0.95ドルまで下落しました。このときは短期間で1ドル付近に戻りましたが、準備金への信頼が揺らげば、再び価格が下がる可能性はあります。
規制リスク
各国の金融規制当局による規制の整備が進んでいます。EUでは暗号資産規制「MiCA」の要件を満たしていないことから、EU域内の主要な取引所でUSDTの取り扱い停止が進みました。米国では2025年7月にステーブルコインを規制する「GENIUS法」が成立しており、準備金として認められる資産の範囲などが定められています。USDTの準備金の一部はこの基準に合わないと指摘されており、今後の対応が注目されています。
中央集権化のリスク
Tether社という単一の企業に依存しているため、分散化を重視する暗号資産の理念との矛盾が指摘されています。実際に、Tether社は犯罪への関与が疑われるアドレスのUSDTを凍結することができます。不正対策としては役立つ一方で、発行元の判断で資産が動かせなくなる可能性があることも理解しておきましょう。
USDTの将来展望
暗号資産市場の発展に伴い、USDTの重要性は今後も続くと予想されます。2026年5月には発行額が過去最高の約1,898億ドルに達しました。しかし、規制に沿った運営を強みとするUSDCなど競合するステーブルコインの台頭や、各国の中央銀行デジタル通貨(CBDC)の開発、日本円建てのJPYCの登場など、新たな挑戦者も現れています。
Tether社は2026年1月、米国の規制に沿うよう設計した別のステーブルコイン「USAT」を米国向けに発行し始めました。USDTは主に米国外向け、USATは米国向けという使い分けが進む可能性があります。
期待される進化
- より強固な裏付け資産の構築と、正式な監査の公表
- 米国のGENIUS法やEUのMiCAなど、各国の規制への対応の強化
- ブロックチェーン技術の進化に伴う機能拡張と、決済での利用の拡大
USDTを利用する際の注意点
- 信頼できる取引所の選択:セキュリティが確保され、日本居住者の利用が認められている取引所を利用する
- ウォレットの管理:秘密鍵の管理を徹底し、セキュリティに配慮する
- 市場動向の把握:USDTに関するニュースや規制動向、準備金の報告に注目する
- 分散投資:資産の一部としてUSDTを利用し、USDCなどほかのステーブルコインや日本円とも分けて持つ
- 送金時のチェーン確認:送り先が対応しているチェーンを必ず確認し、少額で試してから送る
資産を安全に管理する方法については、ビットコインのセキュリティリスクとは?資産を守る7つの対策を解説も参考にしてください。
USDTを使った詐欺に注意
USDTは送金が速く、取り消しもできないため、詐欺に悪用されることも少なくありません。代表的な手口には次のようなものがあります。
- 投資詐欺:SNSやマッチングアプリで知り合った相手から、「必ずもうかる」と偽の投資サイトへUSDTを送るよう誘われる
- アドレスのすり替え:自分がよく使う送金先と、先頭と末尾だけが似たアドレスから少額が送られ、取引履歴からそのアドレスをコピーして誤送金させられる
- 偽のサポート:取引所やウォレットのサポートを名乗り、秘密鍵やリカバリーフレーズを聞き出そうとする
送金先のアドレスは毎回すべての文字を確認し、秘密鍵やリカバリーフレーズは誰にも教えないようにしましょう。
USDTの税金
日本では、ビットコインなどをUSDTに交換した時点で、その暗号資産の利益が確定したものとして課税の対象になります。「日本円に戻していないから税金はかからない」わけではない点に注意しましょう。また、USDTそのものもドル円の為替レートによって円建ての価値が変わるため、USDTを売却・交換したときに利益が出ることがあります。
暗号資産の利益は原則として雑所得として総合課税の対象になり、住民税と合わせて最大で約55%の税率がかかります。海外取引所での取引は、取引履歴を自分で保存し、損益を計算しておく必要があります。
USDTに関するよくある質問
- USDTは日本の取引所で買えますか?
-
2026年10月時点では、国内の取引所でUSDTは取り扱われていません。海外の取引所を利用するか、ウォレットとDEX(分散型取引所)を使って入手する必要があります。国内で米ドル建てのステーブルコインを使いたい場合は、SBI VCトレードで取り扱いのあるUSDCが選択肢になります。
- USDTは必ず1ドルで交換できますか?
-
保証されているわけではありません。Tether社から直接1ドルで償還できるのは、本人確認を済ませた大口の利用者などに限られます。取引所での価格は需要と供給で決まり、2022年5月には一時約0.95ドルまで下がったこともあります。
- USDTとUSDCはどちらが安全ですか?
-
どちらも発行元の企業を信頼して使う仕組みである点は同じです。USDCは米国の規制に沿った運営と情報開示を重視しており、一般に透明性が高いと評価されています。USDTは規模と流動性で勝る一方、準備金の中身や開示の不足を指摘されています。用途に応じて使い分け、一方に資産を集中させないことが大切です。
- USDTを持っているだけで利息はもらえますか?
-
USDTを保有しているだけでは利息は付きません。準備金の運用益はTether社の収益になります。一部の海外取引所やDeFiのサービスでは、USDTを預けると利回りが得られるものもありますが、サービスの破綻やハッキングで資産を失うリスクがあります。
- TRC-20とERC-20のUSDTは同じものですか?
-
どちらもTether社が発行するUSDTですが、記録されているブロックチェーンが異なります。互換性はないため、TRC-20のUSDTをERC-20のアドレスに送ることはできません。送金時は、送り先が対応しているチェーンを必ず確認しましょう。
- USDTを日本円に戻すにはどうすればいいですか?
-
国内の取引所ではUSDTを扱っていないため、海外取引所などでUSDTをビットコインやXRPなどに交換し、国内の取引所へ送金してから日本円で売却するのが一般的です。交換や売却で利益が出た場合は、課税の対象になります。
まとめ
USDTは、暗号資産市場に安定性をもたらす重要な存在です。その利便性や流動性の高さから、世界中の多くの利用者に支持されていますが、同時にいくつかの課題も抱えています。この記事のポイントをまとめると、次のとおりです。
- USDTはTether社が発行する、米ドル連動のステーブルコインで、発行額は約1,840億ドルと最大規模
- 準備金の約6割は米国の短期国債だが、正式な監査は未公表で、S&Pの評価は最低の「5(弱い)」
- 2026年10月時点で国内の取引所では買えず、海外取引所やDEXを使う必要がある
- 送金時はチェーンの選択に注意し、USDTへの交換も課税の対象になる
USDTを利用する際は、そのメリットと潜在的なリスクを十分に理解し、適切に活用することが大切です。暗号資産市場は日々進化を続けており、規制の整備が進む中で、USDTもその流れの中で変化していくことでしょう。


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